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Franco et O.K. Jazz (1956-89)

Nado Kakoma, drums (1982-89)
Carlyto Lassa, Essou-Doue, vocal (1989- )


Artist

NADO KAKOMA ET LES STARS DU ZAIRE

Title

SABLE MOUVANT


nado kakoma
Japanese Title

国内未発売

Date 1990s ?
Label J.I.P./MELODIE JIP 048/41028-2/DK016 (FR)
CD Release ?
Rating ★★
Availability


Review

 「人を肩書きで評価するのはよくない」とはいうけれど、多くの政治家がそうであるようにとりあえずの判断を肩書きに頼らざるをえない場合もある。だから、古賀潤一郎はペパーダイン大学卒と詐称した。「東大卒」は菊川玲の美貌の主要な構成要因なのである。

 このアルバムと出会うまではナド・カコマ Nado Kakoma なる人物がO.K.ジャズに所属していたとはついぞ知らなかった。アルバムの表紙に'du tout puissant T.P.OK JAZZ'(「全能のT.P.OK ジャズの」の意味)のクレジット(そもそも'T.P.OK JAZZ' の'T.P.' とは'Tout Puissant' のイニシャルだからこの表記は同語反復でおかしい!)を発見してとりあえず買ってみることにした。そう、この“肩書き”を知らなければ見向きもしなかっただろうし、聴こえ方もちがっていたと思う。

 裏表紙を見ると、“O.K.ジャズの”ナドの経歴がフランス語で書かれてあった。それによると、82年にドラマーとしてO.K.ジャズに加入。85年の'MARIO' セッション、84年にはシマロの'MAYA' セッション、フランコ晩年のレコーディングなどに参加とある。フランコの死後もジョスキーの'CHANDRA' セッションや、シマロとO.K.ジャズによるアルバム"SOMO!"(邦題『ヴェルヴェット・タッチ』)に名をつらねていた。本盤はそんな“O.K.ジャズの”ナドによる最初の(そして、おそらく最後の)リーダー・アルバムである。

 アフリカのミュージシャンにとって、ドラム・キットはもともとどちらかというと白人の楽器というイメージがあったという。しかもそれは高価だったため、スタジオに置かれてあることもまれだった。そのため、コンゴでドラム・キットが使われるようになったのは60年代終わりごろになってからだと思う。O.K.ジャズもその時分には導入していただろうが、レコードではっきりと聞き取れるようになったのはせいぜい70年代なかばを過ぎてからである。

 コンゴの音楽でドラムスはもっぱらハイハットとスネアが中心で、その他についてはブレイクとかピンポイントでしか使われていないような気がする。つまり、ドラムスの特性が十分に生かされていないのだ。これはコンゴのポピュラー音楽がリズムの複雑さよりもメロディ・ラインの美しさに重きを置いてきたせいだろう。

 “O.K.ジャズの”ナドの時代にはドラムスはすでにO.K.ジャズに欠かせない楽器となってはいたけれども、前面に躍り出ることはけっしてなかったように思う。そんな「縁の下の力持ち」がどういう経緯でリーダー・アルバムを作ることになったかなぞである。

 楽器編成は、“O.K.ジャズの”ナドのドラムスとパーカッションのほかに、ソロとリズム・ギター、ベース、シンセからなるシンプルなギターバンド・スタイル。ドラマーのアルバムなのに、なぜか随所で打ちこみが使われている。

 そして、注目すべきはシンガーたちの顔ぶれ。
 まず、70年代に、バヴォン・マリー・マリーのネグロ・シュクセ、ソキ・ヴァングのベラ・ベラ、ペペ・カレのリプア・リプア、サム・マングワナのアフリカン・オール・スターズを経て、80年代パリでクワトル・エトワールに参加したシンガー、ニボマ Nyboma。というより、近年、コンゴ版ブエナ・ビスタとして人気を集めたケケレの中心メンバーのひとり。
 さらにシマロの名曲'MAYA' のリード・ヴォーカルに抜擢され、のちにO.K.ジャズ入りしたカルリート・ラッサ Carlyto Lassa、ヴィヴァ・ラ・ムジカのジェンガ・K・エスペラン Dyenga K. Esperant。そして、ジョスキーの弟セルジュ・キャンブクタ Serge Kiambukuta、TPO.K.ジャズ92年のアルバム"SOMO!"にゲスト参加していたパリ・リンガラの歌姫アビー・スリア Abby Suria とたいへん豪華。
 
 ところで、95年に発売されたカルリートのソロ・アルバム"AFRICA NA MOTO"(BLUE SILVER 50 480-2/BS 332)に、意外にもプロデューサーとしてナド・カコマの名を発見した。参加ミュージシャンも何名か重複しているし、音の感じからして、本盤の録音年は90年代なかばごろとみるべきだろう。

 全6曲中“O.K.ジャズの”ナドのオリジナル作品が4曲。全体にO.K.ジャズというよりパリ・リンガラならではのシャープで華やかな音づくりだが(というか、だから)紋切り型でビートが単調すぎて奥行きが感じられない(このことはカルリートのソロにもいえる)。
 “O.K.ジャズの”ナドの好みなのか、ファルセット系のフニャフニャした歌唱が中心で、対照的に“O.K.ジャズの”ナドのドラミングはおそろしくキレが鋭く軽快。なかでもラストの'CLES DU BONHEUR' での超絶ワークは本盤最大の聴きどころといえよう。しかし、それだけでしかない。究極のマニア向けアルバムとはこのことをいう。



(6.21.05)



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by Tatsushi Tsukahara